シリーズ「補筆・弁護人に問う」第2回~なぜ黙秘権を行使しないのか

 本シリーズの第2回で「なぜ黙秘権を行使しないのか」を書いた際、刑事弁護における最大の武器は黙秘権であり、「相手方代理人に自分の依頼者を差し出して自由に陳述書を作らせてよいのか」という問題提起をしました。

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 あれから年月が経過し、取調べの可視化(録音・録画)制度の導入や実務の進展によって、黙秘権を巡る状況はさらに大きく変化しました。しかし同時に、弁護人が被疑者にただ「黙秘しなさい」とアドバイスするだけでは、被疑者一人で密室での取調べのプレッシャーに耐え切れないという生々しい現実も浮き彫りになってきました。

 いまや黙秘権の行使を実現するためには、弁護人が一歩進んで取調べの場に介入し、被疑者を孤立させない弁護活動を展開することが不可欠となっています。近年強く認識されるようになった実務上のポイントを補筆しておきたいと思います。

1. 在宅事件における「取調べ同行(準立会)」

 身柄が拘束されていない在宅事件において、被疑者に「黙秘権を行使してください」と助言して警察署へ送り出すだけでは不十分です。取調室という密室で、警察官・検察官から「なぜ黙秘するのか」「話さないと自分のためにならない(暗に逮捕をほのめかす)」と責め立てられれば、一般市民である被疑者は容易に屈してしまいます。黙秘権行使を実現するためには、弁護人の取調べ同行(準立会)が必須です。このエッセイで以前にも書きました。

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 これを書いたのは2021年ですが、今読み返してみると少し複雑に考えすぎていたように思います。ここ数年でのやり取りは、ほとんど次のようなシンプルな流れに集約されます。

 まず、日程調整の際、弁護人から事前に取調室での立会いを求めておきます。これに対し、捜査機関は、建前上は、弁護人の取調べ立会いを一律拒否はしないことになっているので、個別に立会いの是非を検討した形を取った上、100%立会いを拒否します。そこで、被疑者に同行した際、被疑者の目の前で、取調官に対し「弁護人の立会いを認めないのであれば、被疑者本人との事前の打合せに基づき完全黙秘することになっています」と伝えます。

 このやり取りの結果、被疑者は取調室に連れて行かれた後、黙秘権行使の上、わずかな時間で外に出てくることになり、私は被疑者と一緒にその場から立ち去ります。

 被疑者本人の言い分を捜査機関に伝える必要がある時には、弁護人が代わりにそれを書面にして伝え、その書面について捜査機関から質問があった場合には、可能な限りきちんと対処することにしています。

2. 勾留事件における「取調べ拒否」

 身体拘束されている勾留事件において、従来の、取調べに応じつつ黙秘する、つまり取調室内で沈黙し続けるという弁護活動には限界があります。代用監獄(代用刑事施設)に閉じ込められた状態で、連日、長時間にわたり取調室に留め置かれ延々と説得や誘導を受け続ければ、どのような人でも精神的に疲弊し不本意な供述調書が作成されるリスクが高まるからです。

 この点、最近の実務では、黙秘の方針を徹底する場合、そもそも取調べに応じない「取調べ拒否」に踏み切ることが重要な選択肢の一つとなっています。勾留中に過ごす居室から取調室に出かけること自体を拒否するのです。この場合、留置施設の警察官は必ず、勾留中の被疑者には取調べ受忍義務があると言って説得しますが、それ以上に、被疑者を居室から引きずり出したり車椅子に乗せたりといった実力行使をしてまで取調室に連行する例はほとんどないようです。この点、私も取調べ拒否権を実現する会(RAIS)の活動に全面的に賛同しています。

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 先進国と言われる国では弁護人の取調べ立会いが当然の権利として認められているのに対し、日本の刑事司法はいまだ取調室への弁護人立会いをほとんど全く認めていません。これこそが黙秘権行使を困難にし、冤罪の温床となっています。

 12年前、「黙秘権はシンプルであり、取調官の質問に『黙秘します』と述べるだけでよい」と書きました。しかし、これでは全然足りていないと思います。我々弁護士は、個々の事件で「取調べ同行」や「取調べ拒否」を実践するとともに、日弁連やRAISの取組みを支持し、原則的に被疑者を取調室で一人にしない運用を目指す必要があります。現場での実践と制度改革への取り組みが噛み合って、初めて、憲法が保障する黙秘権は実効的な権利として機能するのだと考えます。

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