小さな事件での被告人質問

 久しぶりに、当初から事実関係に争いがなく、しかも執行猶予判決が見込まれる小さな事件の弁護をしました。外国の方のオーバーステイ事案です。

 弁護人が選任される前から事実関係を認める自白の供述録取書がしっかり作成されており、自白調書以外の証拠(甲号証)も、ほぼ客観的なものばかりで、特に指摘することもありません。それに、弁護側立証と言っても、被告人質問くらいしか思いつきません。

 さて、このような事件でも、何かやれることはないだろうかと考え、思いついたのが、甲号証取調べ後、自白調書(乙号証)の証拠意見を全て「不必要、不同意」とし、被告人質問を先行させることでした。これまで、裁判員裁判対象事件以外でも、被告人質問先行を何度もやってきましたが、要通訳事件では、おそらく初めてです。

 限られた時間の中で、通訳を介しながら事件の概要を確認し、犯情事実と一般情状事実を満遍なく聞くというのは、意外と難しいことです。被告人によっては、どうしても誘導が多くなってしまいます。今回の被告人は、受け答えは平均的で、自分としては、やや詳しく厚めに質問したつもりでした。

 しかし、検察官からすると、それでも物足りなかったのでしょう。反対質問で自白調書をなぞるように細かいことを尋ねます。私には、それが事実認定上も量刑上も無意味な質問と思われたので、質問を制限するよう裁判官に求めようとしたところ、その前に裁判官が問題点に気づき、早々に検察官に対し改善を求めていました。

 こうやって被告人質問を先行した結果、自白調書は、無事、請求撤回となりました。おそらく、自白調書が採用されても執行猶予の結果は変わらなかったと思います。しかし、被告人自身も、法廷において緊張感をもってしっかり話すことができ、それが再犯の防止につながればよいと思いました。

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