尋問技術について(3)

 前回の主尋問に続いて、今回は反対尋問について書きます。

 反対尋問については、前々回、原則として誘導尋問(YesかNoかで答えるクローズド・クエスチョンは通常誘導尋問にあたります)で進めると書きました。ところで、さきほど民事訴訟規則第115条第2項2号では誘導尋問が原則として禁止されていると書きました。しかし、他方で、第2項ただし書きには「正当な理由がある場合」は誘導尋問をしてもよいとなっています。では、どう考えるべきなのでしょうか。反対尋問は、主に「証言の信用性に関する事項」について行うものです。そして、証言の信用性を弾劾するためには、前回述べた3C(Commit,Credit,Confront)に従って尋問をしなければ効果的な尋問はできません。そうである以上、通常、反対尋問における誘導尋問は「正当な理由がある場合」にあたるものと解すべきです。なお、刑事訴訟規則第199条の4第3項には「反対尋問においては、必要があるときは,誘導尋問をすることができる」とあります。刑事裁判においては、反対尋問で誘導尋問することは当然の前提となっています。

 証言の信用性を弾劾する尋問の詳細は、前回書きましたので、ここでは繰り返しませんが、尋問の準備段階において、まず、証言の自己矛盾を示す証拠、証言と客観的証拠との矛盾を示す証拠をたくさん集めることが必要不可欠です。その証拠収集を踏まえて、パズルのように尋問事項を組み立てていきます。反対尋問が上手くいったときは、後に出来上がる尋問調書の中で、証人の発言がきれいに「はい」「はい」と続き、最後に「・・・(無言)」で終わっているはずです。

 ところで、反対尋問をする前に、主尋問の段階で、こちらが尋問しようとしていた内容が出てしまうことがあります。つまり、主尋問で、証人がこちらに有利なことを証言した場合です。反対に、主尋問で、準備した反対尋問事項が無意味になってしまう内容が出てしまうこともあります。このような場合、反対尋問の事項を素早く組み替えたり削除したりする必要があります。時間をかけて準備をした以上、持ち時間を目一杯使って反対尋問をしたいという気持ちも分かります。しかし、やはり無駄な尋問は回避すべきです。準備した反対尋問事項が全く使えないことが判明した場合には、裁判官から「反対尋問を始めてください」と言われたとき、潔く「ありません」と答えればよいと思います。証人が主尋問で勝手に崩れた場合には、むしろ「ありません」が本来の姿でしょう。

 反対尋問をする際、気をつけなければならないのは、侮辱的な尋問は絶対にしてはいけないということです(民事訴訟規則第115条第2項1号、刑事訴訟規則第199条の13第2項1号)。侮辱的な質問は、弁護士としての品位・公正さを疑われるだけでなく、聞き手が証人に肩入れするきっかけにもなり兼ねません。証人尋問において、質問者は、自分のことは棚に上げて一方的に質問をすることができ、証人はその質問に回答することしかできません。証人は、質問者に対し逆質問をすることはできず、反論することもできません。質問者と証人との間には、圧倒的な格差があります。そのような格差がある中で、質問者が侮辱的な質問をすれば、証人尋問は「いじめ」のように映ります。聞き手の反発を受けることは必至です。証人に対しては、どのような証人であろうと敬意をもって接しなければなりません。

 最後に、自分側の証人のための反対尋問対策について簡単に述べます。結論から述べると、有効な反対尋問対策は見当たりません。私の経験上、「こう質問されたらこう答えてください」という準備は、本番ではあまり役に立たないように思います。上記のとおり、証人は、質問者に対し圧倒的に不利な立場に置かれています。優れた質問者の手にかかれば、どのような証人であっても、一定程度は証言の信用性を減殺されてしまうでしょう。そのような中、反対尋問対策としては、次のようなことが考えられます。

1 主尋問の段階で先回りして弱点部分を入念にフォローしておく。ただし、これをやり過ぎると主尋問で自分から崩れてしまう可能性があります。

2 質問されたことだけに手短に答えること、ムキにならないこと、不確かなことを思いつきで答えないこと等、基本的な心構えを丁寧に伝える。余計な事を答えて、質問者に有利な材料を与えないために、質問に端的に答えるというのは確かに有効です。ただし、証人の性格や認知能力によっては、何ともならない場合も少なくありません。

3 相手方代理人や検察官の質問に対し、的確に異議を申し立てる。やみくもに異議を申し立てるのは、訴訟遂行を妨害していると受け止められるおそれがあるので、注意が必要です。しかし、訴訟規則に基づいた的確な異議申立は、結果的に自分の証人を守ることにもつながるので、不当な尋問に対しては臆することなく異議を申し立てるべきです。

 尋問技術については、よろしければ下記のエッセイもあわせてご覧いただければ幸いです。

【関連エッセイ】
尋問技術について(1)
尋問技術について(2)
シリーズ「弁護人に問う」第10回〜なぜ異議を申し立てないのか

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