尋問技術について(2)

 以前、このコーナーで尋問技術に関する基本的な考え方について書きました(尋問技術について(1))。今回は、主尋問について、もう少し実践的なことを書いてみようと思います。なお、民事裁判と刑事裁判とは、当然、根拠条文が異なるのですが、共通する部分が多いので、ここでは特に両者を分けることなく書きます。

主尋問については、以前、できるだけ証人の声を裁判官に聞かせることを意識しながら、オープン・クエスチョン(「その後どうしましたか」「そのときどう思いましたか」といった質問)で進めると書きました。誘導尋問(「その後あなたは○○と言いましたか」「そのとき○○と思いましたか」といった質問)は、原則として禁止されていますが(民事訴訟規則第115条第2項2号、刑事訴訟規則第199条の3第3項)、それは、主尋問での誘導は、尋問の意味を失わせてしまうからです。主尋問においては、証人の発言こそが証拠で、質問者の発言はきっかけに過ぎません。証人に積極的に語ってもらうことに意味があるのです。オープン・クエスチョンが上手くいったかどうかは、後に出来上がる尋問調書の中で、質問者の発言がきれいに一行以内で納まっているかどうかを見ればよく分かります。

 尋問時間については、可能な限り短くするのが理想です。証人に全てを語ってもらう必要はなく、本当に必要なことだけを語ってもらえばよいからです。尋問時間が長いと本当に必要なことが相対的にかすんでしまいます。尋問時間が短いことには積極的な意味があると思います。このことは、法廷で心証をとるものとされる裁判員裁判だけでなく、尋問調書を残すことに重要な意味がある通常の民事裁判・刑事裁判も同様です。短い尋問で目的を達成するためには、主尋問のシナリオをよく練っておく必要があります。聞いていて自然と頭に入ってくる順序か、途中で引っかかるところがないか、論理の飛躍はないか、中途半端な状態で次に進んでいないか、といったことです。

 尋問で使う用語にも工夫が必要です。書き言葉と話し言葉の違いを強く意識する必要があるということです。難解な熟語はできるだけ用いることなく、同音異義語も可能な限り回避し、聴き取りやすい言葉を吟味すべきです。裁判官は、大量の文章=書き言葉を素早く読解することを日常的に繰り返しており、書き言葉に強い人達です。そのような裁判官は、判決を書く際、尋問調書を読み返すはずですから、尋問当日には難解な熟語を連発しても構わないといえるかも知れません。しかし、裁判官にその場で事件について色々と考えてもらうためには、尋問当日、耳で聞いてよく分かる尋問をすべきだと思います。

 次に、書面等の示し方についてです。民事裁判では、民事訴訟規則第116条第1項に「当事者は、裁判長の許可を得て、文書、図面、写真、模型、装置その他の適当な物件を利用して証人に質問することができる」とあるだけです。相手方に閲覧の機会を与えた上(同条第2項)、裁判長の許可があれば、適宜、書面等を示してもよいということになります。しかし、そうだからと言って、むやみに書面等を示すことは、それが証人に不当な影響を及ぼし、誘導尋問と同じように、かえって尋問の意味を失わせてしまうおそれがあるので、慎むべきです。

 この点、刑事裁判は書面等の示し方に関するルールが厳格で、民事裁判においても参考になると思います。刑事訴訟規則は、書面等を示すことができる場面を3つに分けています。

1 書面の同一性等について尋問する場合(刑事訴訟規則第199条の10)・・・尋問の中である書面の存在が浮き彫りになってきたところで、その書面が実際に存在することを明らかにするため、尋問の中で証人に示します。この場合、裁判長の許可は不要です。

2 記憶喚起のために示す場合(刑事訴訟規則第199条の11)・・・証人の記憶が明らかでなく記憶を喚起する必要があるときは、裁判長の許可を受けて書面等を示します。ここで気をつけなければならないのは、書面等を示す前に、証人の記憶が明らかでなく記憶を喚起すべき状況になったことが必要ということです。ここをスキップして、いきなり書面等を示そうとすれば、当然、相手方から異議を申し立てられます。

3 供述の明確化のために示す場合(刑事訴訟規則第199条の12)・・・証人の供述を明確にする必要があるときに、裁判長の許可を受けて書面等を示します。ここで示すものは図面や写真が多く、例えば、移動した経路や目撃した位置関係等を証人に図面を見ながら解説してもらうといった場合に用いられます。ここでも、事前に、供述を明確にすべき状況になっていることが必要です。

 書面を示すことに関連して、若干気になるのは、民事裁判における陳述書の示し方です。民事裁判においては、証人・当事者本人の尋問を実施する前、その人の陳述書を書証として提出しておくのが一般です。その陳述書の成立の真正(偽造等でないこと)を立証するため、証人・本人尋問の際、その証人・本人が間違いなく陳述書に署名押印したかどうかを確認します。尋問の冒頭でこの儀式が行われることが多いのですが、あくまでも成立の真正を立証するだけですから、署名押印部分の確認だけにとどめる必要があります。このとき、署名押印部分の確認を超えて、証人・本人に陳述書の中味を詳しく読ませてしまうと、結局、カンニングと同じ状態になるので、注意が必要です。

 次回は、反対尋問について書きます。

【関連エッセイ】
尋問技術について(1)
尋問技術について(3)
シリーズ「弁護人に問う」第10回〜なぜ異議を申し立てないのか

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