事実に向き合わない裁判所(名張毒ぶどう酒事件第8次請求審決定)

 本日、名古屋高等裁判所は、名張毒ぶどう酒事件第8次再審請求を棄却する旨の決定をしました。昨年10月、特別抗告棄却により第7次再審が幕を閉じ、翌月、第8次再審請求がスタートしてから、わずか半年余りです。この間、弁護団は、裁判所に対し、検察官が存在を認めながら頑なに開示しようとしない未開示証拠の開示について、証拠開示命令の申立をしました。また、弁護団は、裁判所に対し、毒物問題に関する新たな実験を行い、その結果を近々提出する予定であると予告していました。この実験の結果を見れば、裁判所は、あらためて毒物の問題を考え直したはずです。

 ところが、裁判所は、証拠開示について全く動きませんでした。弁護団の主張を無視したのです。また、弁護団による実験結果の提出を待ちませんでした。重要な科学的証拠を見ようともしなかったのです。裁判所の論理は、要するに、同一の理由により更に再審を請求することはできないという形式論です。確かに、再審には新証拠が必要であり、第8次再審において裁判所に提出されていた新証拠は、第7次で提出されたものでした。しかし、最高裁判所は、弁護団がその証拠を提出した後間もなく決定をし、その決定文からは、提出された証拠を検討した形跡は全くありませんでした。そのような場合に、同一の理由であることを理由に再審を棄却してよいかどうかは議論のあるところだったはずです。

 そもそも、再審とは、無辜(無実の人)の不処罰を目的とした制度です。弁護団が提出しようとしていた実験結果は、奥西さんが用いたとされるニッカリンTという農薬(毒物)が、実は犯行に使われた物ではなかったという疑問を投げかける重要な証拠です。その証拠がどのようなものか、今回の裁判官は関心を持たなかったのでしょうか。今回の裁判官には、事実が何かを追究するという裁判官に必要な基本的姿勢が欠けていたと言わざるを得ません。この点、3月の袴田事件の決定に携わった裁判官のひたむきな姿勢とは正反対です。

 ところで、裁判官は、今回の決定前、八王子医療刑務所に入院中の奥西氏と面会し、88歳と高齢であることや健康状態が悪化していることを踏まえ、早く決定することにしたそうです。つまり、今回の裁判官は、重篤な病状の中、懸命に生きようとしている奥西さんの様子をわざわざ自分の目で確認し、急いで再審の道を閉ざしたのです。これは一体どういうことでしょうか。生きているうちに死刑を執行させるということでしょうか。それとも、お前は死刑囚であると十分自覚させた上で死んでもらうということでしょうか。いずれにせよ、このような感性の裁判官が存在するということに、私は残念な気持ちで一杯です。

 今回の決定は極めて不当なものです。しかし、弁護団は立ち止まることなく、今後も科学的証拠を積み重ね、必ずや再審の扉をこじ開けるべく一層の努力をする所存です。

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