尋問技術について(1)

 法廷での尋問は、弁護士にとって最大の腕の見せどころです。広い意味での尋問には、証人尋問だけでなく、民事事件における原告・被告本人尋問、刑事事件における被告人質問等、様々なものが含まれますが、ここでは便宜上、一括りに尋問と呼びます。尋問には、証人尋問を請求した側の当事者が最初に行う主尋問と、主尋問の後に反対側の当事者が行う反対尋問があります。

 法廷に立ったことのある弁護士であれば、皆、尋問を経験したことがあるはずです。尋問は、最も弁護士らしい仕事と言ってよいでしょう。そして、世間一般には、弁護士であれば、皆、それなりに上手く尋問をするものだろうと思われていることでしょう。ところが、法廷において、基本的なトレーニングを積んできたとは思えない稚拙な尋問に出会うことが少なくありません。それは、質問者の声が小さいとか早口だとか日本語が不自然といったものから、民事・刑事訴訟規則の理解が不十分といったもの、さらには、尋問したことでかえって不利になったのではないかと内容面で疑問を感じるようなものまで様々です。

 的確な尋問をするためには、もちろん事件の記録を読み込んでおくことが必要ですが、それだけでは足りず、あらゆるスポーツと同様、基礎的な技術(テクニック)の習得・実践が必要不可欠です。ところが、私達のときもそうだったのですが、司法研修所や法科大学院では、この技術を大切にしてこなかったと思われるところがあります。その背景には、民事・刑事を問わず、日本の弁護士が、法廷での活動よりも書面を作成することを重視してきたという事情があるように思います。しかし最近は、裁判員制度の影響もあって、特に刑事の分野において、この尋問技術を一から見直す動きが出てきました。以下、主尋問と反対尋問の技術について、それぞれ簡単に述べたいと思います。

 主尋問は、いわば味方に対する尋問です。主尋問の準備段階においては、本人が用いる用語や話し方を尊重するという姿勢が大切です。事前の打合せで、弁護士が証人予定者に「それは○○でしょう」「私が○○と尋ねたら○○と答えてくださいね」とアドバイスする場面を見ることがありますが、あまり良い姿勢とは思えません。もちろん、通常は尋問事項を用意してから打合せに臨むものですが、もしその尋問事項どおり上手くいかなかったら、証人予定者が答えやすいように弁護士側が質問の仕方を柔軟に変えるべきです。

 尋問当日も、できるだけ証人の声を裁判官に聞かせることを意識しながら、オープン・クエスチョン(「その後どうしましたか」「そのときどう思いましたか」といった質問)で進めます。誘導尋問(「その後あなたは○○と言いましたか」「そのとき○○と思いましたか」といった質問)は避けるべきです。主尋問はこのような性質のものですから、主尋問の失敗は、証人が至らなかったからではなく、弁護士の質問の仕方が悪かったからだと思います。

 反対尋問は、いわば敵方に対する尋問です。反対尋問は、主として主尋問の証言内容が信用できないことを明らかにするためのものです。反対尋問は難しい、失敗して当たり前と言われることがよくあります。しかし、私はそうではないと思います。定石どおりに進めれば、一般に主尋問より時間が短く、負担も大きくないはずです。反対尋問で最も重要なのは、答えの予測できない質問は絶対にしないという姿勢です。主尋問とは逆に「なぜ」と尋ねることなく、原則として誘導尋問(YesかNoかで答えるクローズド・クエスチョンは通常誘導尋問にあたります)で進めます。敵方の証人ということもあって、思わず証人と議論したくなる衝動に駆られることがありますが、これは論外です。

 反対尋問は、全米法廷技術研究所(NITA)の3C(Commit,Credit,Confront)に従って準備を進めるのが有効です(もちろん応用編もあります。)。まず、主尋問で出た証言に証人を肩入れさせます(Commit)。「あなたは、さきほど○○と証言しました。間違いないですね」といった具合です。次に、以前、証人が異なった供述をしていた場合、その供述が信用できる状況でなされたことを確認します(Credit)。「○日、○さんに会いましたね。」「○さんに○の話をしましたね。」「あなたはありのままに事実を語りましたね。」「○さんはあなたの話を聞いてくれましたね。」「○さんはあなたの話をメモしましたね。」といった要領で細かく丁寧に尋ねます。そして最後に、主尋問と矛盾する過去の供述と対面させます(Confront)。「そのメモの内容は○○でしたね。」「(メモを示して)これがそのときのメモですね。」となります。ここで重要なのは、絶対に深追いしないことです。せっかく上手くいったのに、調子に乗って「なぜ主尋問で違う証言をしたのですか」などと尋ねてしまうと、証人は色々と弁解してしまうからです。なお、せっかく反対尋問が上手くいったのに、訴訟規則上、相手方には続く再主尋問で弁解する機会があります。しかし、一度反対尋問で崩れた証言は、その後いくら弁解しても手遅れですから、あまりこの点を気にする必要はないと思います。いずれにせよ、自分のシナリオ通りに事が運ぶにはどうすれば良いか、反対尋問の準備で試行錯誤する時間は、やや語弊はありますが、パズルのような楽しさがあります。

 以上、簡単に尋問について述べましたが、訴訟全体で見ると、あまり尋問が重視されない事件が多くあります。これは証言以外の客観的証拠で事実上の決着がついてしまう事件が多いという側面があるからです。しかし、それだけでなく、私は、特に民事事件において、弁護士による稚拙な尋問に対し、裁判官が意外と甘いという印象を受けることがあります。また、自分が頑張っているところを依頼者にアピールしたいのか、不必要に長い尋問が多いようにも感じます。このように、尋問技術について思うところもありますが、尋問は、最も弁護士らしい仕事の一つですから、私達は常に技術を磨き続けなければならないと思います。

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尋問技術について(2)
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