シリーズ「補筆・弁護人に問う」第1回〜なぜ被疑者・被告人に向き合わないのか

 12年前にシリーズ「弁護人に問う」を執筆した際、最初に刑事弁護における人間関係構築の基本について書きました。

あわせて読みたい
シリーズ「弁護人に問う」第1回〜なぜ被疑者・被告人に向き合わないのか  若い弁護士の方からこういう質問を受けることがあります。「被疑者・被告人が○○○と言って否認しているのですが、とても本当のこととは思えず困っています。どうしたら...

 歳月が流れても基本的な考え方が変わることはありませんが、特に「対応が難しい」「心を開いてくれない」と感じる被疑者・被告人とどのように向き合うかという点について、もう少し踏み込んだことを書き留めておこうと思います。

  1. 次回の接見約束とその約束の履行
     被疑者・被告人との接見の最後に、次回の接見日時を具体的に約束しておくことです。そして、万が一急用でその日時に行けなくなった場合は、手紙、電報など何らかの形で、行けなくなった理由と次の予定を速やかにフォローしておくと良いでしょう。勾留中の被疑者・被告人は、社会から隔離され不安と孤立感の中にいます。弁護人の「また来ますね」という漠然とした言葉とその後の日数の経過は不信感を募らせることに繋がります。この点、「〇日〇時にまた来ます」と約束しておけば、それが彼ら彼女らにとっての安心感となります。そして、もし約束が履行されず、その後、何のフォローもなければ、「見捨てられた」「軽視された」と受け止められることになります。これは接見以外の仕事の場面でも全く同じですが、約束を守る姿勢が信頼関係の構築につながるはずです。

  2. 雑談はほどほどにし適切な距離感を保つ
     被疑者・被告人との良好な関係を構築しようとするあまり、無理に場を和ませようと雑談を重ねたり、弁護人自身のプライベートな話題を引き合いに出して親密さを演出しようとしたりすることは避けるべきです。プロフェッショナルとして適度な距離感を維持することが求められます。勾留中の被疑者・被告人は当然不自由を感じながら過ごしています。そのような人との距離が近づきすぎると、過度な依存、理不尽な要求に発展することがあり、肝心の本来的な弁護活動が疎かになることに繋がります。また、弁護人の私生活や志向を見せることは、弁護活動の客観性や冷静な判断を鈍らせるリスクを孕みます。親身になることと馴れ合いは区別されなければなりません。法的専門家としての立ち位置を崩さないことが、被疑者・被告人の利益を守ることにもなるはずです。

  3. 可能性が低いと思えることも正面から受け止める
     被疑者・被告人が訴える主張や要望の中には、一見して「突拍子もない」「やっても無駄だ」と思えるような内容が含まれていることがあります。しかし、それを最初から切り捨てるのではなく、一度正面から受け止め、実際に足を運んで調べてみるなどのアクションを起こすことが大切です。刑事弁護は100試して1つうまくいけば上出来という現実があります。弁護人の思い込みや限られた知識・経験で最初から無駄と決めつけて動かなければ、わずかな可能性の芽さえも摘んでしまいます。そして、さらに重要なのは被疑者・被告人とのプロセスの共有です。たとえその調査が徒労に終わったとしても、「実際に調べてみたが見つからなかった」という事実を正確にフィードバックすることで、被疑者・被告人は「この弁護士は自分の言葉を真剣に受け止めて動いてくれた」と思うようになり、それが良好な信頼関係の構築に繋がっていきます。

  4. 一人で抱え込まず共同受任で弁護する
     それでも対応が困難で精神的負担が大きいと感じる事件は、私選弁護事件であれば可能な限り共同受任で弁護にあたることが望ましいです。国選弁護事件においては残念ながら複数選任が認められる事案は限られていますが、守秘義務に違反しない程度に同僚、先輩に相談できる体制を作っておくと良いでしょう。このような事件を一人で抱え込むと、被疑者・被告人からの(場合によってはそれ以外の関係者からの)攻撃的な言動などで弁護人自身が疲弊し、冷静に判断ができなくなることに繋がります。複数人で担当することで、精神的なストレスを分散させ、客観的な視点を得ながら弁護活動を進めることができます。それが自分の経験値アップにもなるでしょう。加えて、被疑者・被告人が勾留されている事件では接見の負担も軽減されます。対応が困難で精神的負担が大きいと感じた場合には、同僚や先輩に躊躇なくSOSを出すべきです。

    被疑者・被告人と円滑なコミュニケーションが取れないとか、自分が被疑者・被告人に信頼されず、むしろ強い不信感を抱かれているといった場合に、以上のようなアドバイスが役に立つかも知れません。
目次