カルロス・ゴーンさんが訴追された事件の内容や、彼の日本におけるこれまでの業績について、私は全く無知であり部外者です。無責任にコメントできる立場にはありません。しかし、日々、刑事弁護に携わる身として、彼の日本の刑事司法に対する痛烈な批判だけは、全くその通りであるとしか言いようがありません。
ひとたび逮捕されれば家族との接見さえ禁止された状態がいつまでも続く。弁護士の立会いすら認められないまま毎日長時間の取調べが続く。起訴前の保釈すら制度化されていない。保釈された後も妻と会うことさえ許されない日々が延々と続く。検察官が証拠開示に非協力的でなかなか前に進まない。公判の見通しがなかなか立たず、争えば何年もこのような生活が続く。逮捕されるや罪人扱いを受け無罪推定の原則はない。99%が有罪となる。国際人権規約を守っていない。自白しないと延々と勾留され人質司法が罷り通っている。おまけに、法務大臣が被告人に向かって無実を証明せよと言う。
ゴーンさんによる日本の刑事司法に対する批判は、事実に基づき非常に具体的でリアルなものでした。これに対し、法務省や検察庁は、批判は当たらない、我が国の刑事司法は適正に運用されているなどという趣旨の抽象的な答弁にとどまっており、論戦としては完敗したと言わざるを得ません。日本の外国語による情報発信力の脆弱さもありますが、実際のところ、日本の刑事司法の闇を鋭く批判され、反論のしようがないというのが実情だと思います。
保釈の指定条件を破って逃亡したという点は決して賛同できるものではありませんが(しかし、日本の入管がザルだということには驚きました)、日本のガラパゴス的刑事司法に対する批判は、全くその通りと言うしかありません。この業界に身を置く者として、そこが何とも複雑な心境です。