弁護士の広告について思うこと

 最近は地下鉄に乗ると弁護士の広告が目につきます。テレビをつけると法律事務所のCMを目にすることもあります。世界的な不況の中、積極的な広告宣伝に乗り出す業界が珍しいせいか、知人や依頼者の方からも、なぜ弁護士は今あんなに広告を出しているのかと不思議がられることがあります。ちなみに、弁護士だけでなく、本来は登記業務の専門家である司法書士もよく広告を出しています。

 しかしよく見ると、弁護士の広告は、ほとんど全てが債務整理(過払金請求)や個人破産に限定されているようです。弁護士の扱う分野は、債務整理や個人破産だけではありません。取引上の紛争、不動産の紛争、交通事故、労働事件、離婚、相続、成年後見、刑事事件、少年事件、他にも様々な分野の問題を扱います。しかし、弁護士の広告はやはり債務整理と個人破産ばかりです。これは一体どういうことでしょうか。

 答えはこういうことだと思います。数ある弁護士業務の中で、債務整理や個人破産だけは、弁護士があれこれ悩みながら一つずつ手作業で扱わなくても、マニュアル化することによって、ある程度の成果を挙げることができるということです。つまり、積極的に広告を打ち出して依頼者を集め、事務職員を何人も雇って、事務職員が中心になってマニュアルどおりに事件を処理していく、こういうやり方に特化した弁護士や司法書士が広告を出しているのだろうと思います。

 思えば、何年か前まで、債務整理の中には、手強い貸金業者を相手に法律を駆使しながら対抗するという仕事がかなりあって、過去の取引状況を明らかにすることさえ難しく、決してマニュアル化できるような分野ではありませんでした。個人破産もそうです。しかし、最近では、弁護士が全部対応しなくても、ある程度の成果を挙げることが可能になったように感じます。ここで、ある程度の成果と書いたのは、私個人としては、債務整理や個人破産についても、やはり弁護士が手作業で扱ったほうが良い解決につながるという信念を持っているからです。ですから、私は、債務整理や個人破産も、他の分野の事件と同じように、できるだけ自分の手作業でやるようにしています。

 逆に、債務整理や個人破産以外の分野で、弁護士の業務をマニュアル化をすることは、おそらく不可能に近いと思います。もちろん、定型的な文書の作成や発送、書類の整理など、事務職員に任せたほうが丁寧にできる仕事もあります。しかし、例えば、同じ離婚事件でも、依頼者・相手方が違えば全く別の事件であり、全く別の接し方が必要になってきます。私は、弁護士の仕事は、基本的には職人仕事であって、マニュアル化できるものではないと思っています。そう思いながら、地下鉄に乗って法律事務所の広告を眺めると、まるで別の業界の広告を見ているような気がしてくるのです。

 では、私たちの事務所を含め、法律事務所のホームページはどうなのか、あれも広告宣伝ではないかという意見もあるかも知れません。確かに、広告という側面もあると思います。しかし、これは弁護士によって考え方が違うのかも知れませんが、私たちは、広告宣伝という側面よりも、相談者や依頼者に対する情報提供や、弁護士へのアクセスを容易にする取り組みの一環としてホームページを作っています。そして、実際、そのような目的で利用されているものと思っていますが、いかがでしょうか。

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