本シリーズの第5回で証拠開示を取り上げた際、検察官の手元にある証拠を積極的に開示させることが公判弁護の第一歩であり、いかに工夫して開示請求をするかについて書きました。

12年が経過し、刑事裁判における証拠は質的にも量的にも大きく変わりました。検察官からの任意開示を待つだけでなく、弁護人自らが特にデジタル証拠を積極的に収集・分析することの重要性が飛躍的に高まっています。そこで、現代の刑事弁護における証拠開示戦略のポイントを補筆しておきたいと思います。
1. デジタル証拠は待っていても開示されない
特にアリバイ・事実関係が争われる否認事件において、スマートフォンのデータ(位置情報、LINE等の通信履歴など)、防犯カメラ映像、ドライブレコーダーの記録といったデジタル証拠は極めて重要です。
しかし、膨大なデジタルデータのうち捜査機関にとって不都合な情報が含まれているかも知れないデジタル証拠は、あまり検察官から率先して開示されることはありません。弁護人が自力で獲得しにいかなければ、開示されないまま裁判が終わってしまうかも知れません。なお、検察官に対する証拠開示請求のほか、押収物還付請求を急ぐとか、現場に足を運んで防犯カメラやドライブレコーダーの所有者と交渉するとか、クラウド上のデータを探し出すとか、様々な入手方法が考えられます。
2. 公務所照会や弁護士会照会の活用
検察官に対する証拠開示請求は、対象が検察官が保管している証拠、あるいは検察官が容易に入手できる証拠に限定されるという点で限界があります。捜査機関が把握していない情報を入手するためには、ときには証拠開示に頼るのではなく、裁判所を通じた公務所照会(刑訴法279条)や弁護士会照会(弁護士法23条の2)を積極的に活用すべきです。
証拠開示とこれらの証拠収集手段を組み合わせることで、弁護人の具体的な立証計画を組み立てることが可能になります。
3. AI技術の活用による「証拠一覧表」のデータベース化
2016年の刑事訴訟法改正により、弁護人の請求によって検察官から証拠一覧表の交付を受けられる制度が創設されました。証拠一覧表は検察官の手持ち証拠を把握するという点において有意義なもののなるはずでしたが、検察庁は、意地悪なことに全国を挙げて、弁護人に交付するものを紙ベースの表に限定し、大量の証拠項目から目的のものを探し出すには使い勝手が悪いという問題がありました。
しかし、現在では、AIを駆使することで紙ベースの証拠一覧表を即座にテキスト化し、ExcelやGoogleスプレッドシート等のデータベースへ変換できるようになりました。日付順、作成者順、名称順などに一瞬で並べ替え(ソート)や検索を行うことで、捜査の経緯や証拠の欠落部位を容易に把握できるようになり、以前に比べて使い勝手の良いものになりました。
12年前のエッセイでは、証拠開示に絞って、検察官が開示を渋る証拠をいかに開示させるかという点に触れるにとどまりました。
しかし、証拠開示も弁護人の証拠収集、立証計画全体の中の一部に位置づけられるものであり、デジタル証拠の確保、各種照会手段の駆使、証拠一覧表の分析などとあわせて総合的に検討されなければならないと考えます。
今後、生成AIがますます進化していけば、わずかな年数でさらに大きな変化が見られることは間違いないでしょう。
