若手弁護士の不安

 最近は、委員会や同業者の親睦会などで、1年目から5年目位までの若手弁護士と話す機会が多くなりました。私たちには守秘義務があるので、具体的な事件の話はできないのですが、そのような会合に出ると、若手弁護士が今どのようなことに関心を持っているのかを知ることができます。若手とはいえ、近い将来は中堅の弁護士になり、いつかはベテランの弁護士になる人達ですから、若手弁護士の関心は、将来の弁護士像を決める上で重要な鍵を握っています。

 ところで、若手弁護士の中でも、事務所に勤めて給料をもらっている勤務弁護士(あまり良い言葉とは思えませんが、私たちの業界ではイソ弁=居候弁護士とも言います)と、独立して事務所を構えている弁護士とでは、だいぶ関心が異なるようです。勤務弁護士の場合、基本的には、事務所内で円満な人間関係を築きつつ、経営者の弁護士から任された仕事をきちんとこなすという点に関心があるようです。サラリーマンである以上、これは当然のことでしょう。後の安定志向の話とも関係しますが、最近は勤務弁護士を長く続けたいという人が増えているとも聞きます。

 これに対して、最近独立した若手弁護士の関心の多くは、どのようにして安定的に仕事を確保するかという点にあるようです。いや、関心というよりも不安、つまり仕事が途絶えるのではないかという強い不安と言えるかも知れません。

 このような不安の原因は2つあると思います。

 1つは、弁護士全体の数が以前に比べて圧倒的に増え、現在もすごいペースで増え続けていることです。1990年当時、全国の弁護士の数は約1万4000人でした。その10年後、つまり私が登録した2000年当時は約1万7000人でした。ところが、2011年現在、弁護士の数は実に3万人を突破しています。約10年で倍増です。そして、これだけ数が増えれば事件の奪い合いとなり、仕事を確保するのが困難になるという考えにつながります。業界に「新規参入」してきた若手弁護士が、既に依頼者とのパイプを多く持っているベテラン弁護士より将来を不安に感じるのは無理もないことです。

 もう一つの原因は、弁護士に限らないことですが、最近の若い人の安定志向にあるように思います。日本全体に明るい材料がない上、弁護士の数が爆発的に増えている現状では、安定志向になるのはやむを得ないともいえます。しかし、いくら将来に不安があるからと言っても、そのような不安は世の中の自営業者共通のものだと思います。いや、もっと大変な業界はたくさんあります。私も、独立してたかだか6年目の自営業者です。将来の確たる保証などありません。「不安はないのか」と問われれば、「ある」と答えます。しかし、あまり手を広げることなく、目の前の仕事を地道にこなしながら、依頼者の信頼を得て、その紹介で新しい仕事を受ける。自営業者である以上、結局、これを繰り返していくしかありません。あとは、自分が弁護士の仕事を本当に好きかどうか、続けたいと思うかどうか、という「執着」の問題だと思います。

 あと10年位経つと、今ある弁護士像はガラッと変容しているのかも知れません。最近よくそう思います。

【関連エッセイ】
法曹人口問題(2)
法曹人口問題(1)

目次