司法修習を終えると、それまで同じカリキュラムで学んできた人達が、弁護士、裁判官、検察官とそれぞれ別の道に進みます。しかし、弁護士を18年もやっていると、あらためて、弁護士と他の公務員二者との違いを実感することがあります。
公務員である裁判官と検察官は、どちらも身分保障が確立されており、給与所得者ですから、収入のことを気にせず、目の前の仕事に集中することができる環境が整っています。これは、自分で仕事を獲得しない限り一円も収入を得ることができない弁護士(ただし自営業者である弁護士の場合ですが)とは大きく異なり、かなり魅力的です。他方、裁判官と検察官は、来た仕事を断ることはできないので、仕事を選ぶことができる弁護士からすると、気の毒にも見えます。ただし、裁判官と検察官には転勤があるので、通常2年ないし3年で全ての仕事をリセットすることができます。終わりの見えない仕事を常に抱えている弁護士からみれば、羨ましい側面もあります。
出世を気にしなくてよいのも弁護士の魅力です。裁判官や検察官の場合も個人差はあり、たまに出世を全く気にしなさそうな人もいますが、大半は違うように見えます。最高裁長官・検事総長を頂点にポストの序列ははっきりしており、裁判所・検察庁の所在地にも序列があります。どこへ行っても、東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、高松の順が変わることはありません。同期の出世状況も一目瞭然です。裁判官も検察官も各自独立して仕事ができる建前ですが、自分の人事評価をする上司を意識せざるを得ない環境に置かれ、宮仕えというものは、昔も今もなかなか大変な世界です。
これに対し、弁護士は、1年目も10年目も30年目も同じ弁護士として扱われます。もちろん先輩法曹に対する敬意は払っていますが、ポストの上下を意識するようなことは全くありません。弁護士会の会長や副会長を経験したからと言って偉いということにはなりませんし、どこかの大きな会社の顧問弁護士だからと言って格別どうというわけではありません。東京の弁護士が地方の弁護士より優れているというわけでもありません。それに、基本的に、気の合わない人と無理して一緒に仕事をする必要もありません。自分の基準で納得のいく仕事ができれば良く、それに加え、もし他の人が自分の仕事を評価してくれればちょっと嬉しい、という感覚です。
あとは、仕事の質と対価のバランスが取れれば申し分ないのですが、こればかりは難しいものがあります。10年前に比べれば仕事の質は向上したはず(と思いたい)ですが、個々の仕事の対価は10年前と変わっていないか、むしろ漸減したような気がします。裁判官や検察官にはないこの悩みについては、今度ゆっくり考えてみます。