名張毒ぶどう酒事件の異議審決定

 5月25日、名古屋高等裁判所刑事2部は、名張毒ぶどう酒事件(請求人奥西勝さん)の再審請求(差戻異議審)について、名古屋高等裁判所刑事1部が出した再審開始決定(平成17年)を取り消し、再審請求を棄却する決定をしました。私たち弁護人は、決定書を見た瞬間、皆、言葉を失いました。非常に残念です。拘置所で決定を伝えたときの奥西さんの何ともいえない無念の表情が目に焼き付いて離れません。

 決定以降、なぜこうなったのかをずっと考えていますが、なかなか整理がつきません。しかし、個人的な印象ですが、この事件のような「死刑再審(確定判決が死刑である再審事件)」について、無期懲役を含む他の再審事件とは別次元の高いハードルの存在を実感したことだけは確かです。もし、この事件が「死刑再審」でなかったら、とうの昔に奥西さんは再審無罪になっていたのではないでしょうか。もちろん、このように高いハードルを設定することは、現行法の解釈をゆがめるものであり、許されないことです。

 日本には、戦後、最終的に無罪となった4件の「死刑再審」があります。免田事件(昭和58年7月15日再審無罪)、財田川事件(昭和59年3月12日再審無罪)、松山事件(昭和59年7月11日再審無罪)、島田事件(平成1年7月31日再審無罪)です。最近では、氷見事件、足利事件、布川事件などが再審無罪となりましたが、いずれも「死刑再審」ではありませんでした。島田事件を最後に20年以上「死刑再審」は開かれていないのです。高裁刑事2部は、まるで「もう日本には死刑再審など存在しないのだ」と宣言しているかのようです。今こそ、名張毒ぶどう酒事件と4件の「死刑再審」とはどこが違うのか、名張事件と最近の再審無罪の事件とはどこが違うのかという横断的な分析が必要だと思います。

 それにしても、高裁刑事2部は、一昨年4月、最高裁が高裁に差し戻して審理を命じた「宿題」をきちんとやらずに、また「解答」を間違えました。当然、最高裁は、この間違った「解答」を再び取り消すことになるでしょうが、それだけでなく、今度こそ差し戻さずに自分自身で再審開始の最終決着をつけてほしいです。奥西さんの命は、まだまだ燃え尽きないと信じていますが、それでも86歳という年齢を考えると、いつまでも時間があるわけではありません。

 あと少しの間、さらに頑張らなければならないという思いを新たにしました。

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