ハーグ条約と人身保護請求

昨日(3月5日)、最高裁第1小法廷が、ハーグ事案に関連した人身保護請求の上告審で両親から意見を聞く審問を開いたことから、本日はマスコミ各社で事件に関する報道がなされていました。

事案は、米国在住の父親(日本人)が、2016年に息子を連れて日本に帰国した母親に対し、ハーグ条約実施法に基づき子の返還を申し立て、返還命令を取得したことに始まります。しかし、母親は息子の返還を拒否し、強制執行は不能に終わりました。そこで、父親が名古屋高裁金沢支部に人身保護法に基づく息子さんの釈放を求めたところ、同支部が父親の請求を棄却したというものです。父親は、最高裁に上告をしました。ある新聞では「父親の敗訴見直しか」という見出しがつけられていました。

父親が人身保護請求をしたのは、返還命令に基づく強制執行が実現できなかったからです。新聞報道によれば、執行官が母子宅を訪問したところ、母親が息子と布団に籠って引き渡しを拒絶したそうです。現在、日本では、執行官は、居宅を解錠し、親を説得することはできますが、子を親から力ずくで引き離すことができないのです。

そこで、この事案に関連して、他の新聞では、ハーグ条約実施法に基づく強制執行(代替執行)が1件も成功していない現状が報道されていました。確かに、他国の強制執行は、日本のそれとは違います。子が親と一緒にいないときでも、家以外の場所(学校など)でも、子を確保することができます。また、裁判所の命令を実現するため、検察官や警察官により強制執行が実現されます。

子の引き渡しについては、現在、民事執行法の改正審議においても重要なテーマになっており、異なる立場から、様々な議論がなされているところです。

まさに揺れている分野なのではありますが、上記上告審の判決は、3月15日に言い渡されるそうです。