子の返還申立事件(ハーグ条約実施法)の傾向

ハーグ条約実施法が平成26年4月1日に施行されて4年目になります。

しかし、同法に基づく子の返還申立事件についての裁判例は公表されていません。裁判例が十分な数に達していないため、公表をすると当事者が特定されるおそれがあるというのが理由です。そのため、日本の裁判所において、どのような事情が考慮されているのか、返還事由や返還拒否事由の判断基準がどのように考えられているのかについて、これまで正確な情報がありませんでした。

しかし、「家庭の法と裁判」の最新号(No.12/2108.1)に、「ハーグ条約実施法に基づく子の返還申立事件の終局決定例の傾向について」という東京地方裁判所の依田吉人判事の論稿が掲載されています。平成26年4月1日から平成29年3月31日までの東京及び大阪の各高家裁がした合計21事案(子の数は31名)の裁判例について、実施法27条に定める返還事由(常居所地国の所在、監護の権利の侵害の有無、留置の開始時期)、実施法28条1項1号から6号に定める返還拒否事由(同意又は承諾、重大な危険、子の意見など)について、裁判例の傾向が分析されています。

実際の裁判例をふまえての分析であることから、非常に参考になりました。また、裁判例の結果別(返還、不返還、抗告棄却、取消し)の内訳、不返還理由の内訳、調停成立事案の結果別の内訳も掲載されており、現時点での実施法の運用状況を把握することができます。