本日、最高裁の大法廷は、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権はいずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象になるという決定を行い、事件を大阪高等裁判所に差し戻しました。
これまで預貯金債権については、相続開始と同時に当然に相続人が相続分に応じて分割取得し、相続人全員の合意がない限り遺産分割の対象にならないものと取り扱われてきました。それを変更することになりますので、今回の決定は実務に大きな影響を及ぼします。
最高裁の決定書は、既にウェブサイトで公開されていますので、その全文を読むことができます。
最高裁は、「遺産分割は共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするので、被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましい」という価値観と、「預貯金は、現金のように評価に不確定要素が少なく、具体的な遺産分割の方法を定めるにあたって調整に資するので、遺産分割の対象とする要請が広く存在する」という実務上の観点を指摘しています。そして、預貯金債権の性質については、被相続人の死亡により共同相続人全員に帰属するところ、1個の債権として同一性を保持しながら常に残高が変動し得る性質のものであって、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはない、と位置づけています。
以前、このひと言でも紹介しましたが、現在、法制審議会で相続法改正が検討されており、預貯金債権を含む可分債権を遺産分割の対象とするかについても検討項目の一つです。なお、中間試案に対するパブリックコメントの結果は、預貯金債権を遺産分割の対象とすることについて、積極的な反対意見はありませんでした。
しかし、遺産分割と可分債権との関係については、1)預貯金債権以外に、遺産分割の対象となる可分債権の範囲をどこまで認めるのか(貸金請求権、不法行為に基づく損害賠償請求権や不当利得返還請求権なども含めるのかどうか)、2)預貯金を遺産分割の対象とする場合、共同相続人全員が共同して行使しなければならないことになるところ、被相続人の入院費、相続税の支払、被相続人から扶養されていた相続人の生活費などを支出する場合に、共同相続人全員の同意がなくても払い戻しが認められるのかどうか、個別の権利行使は可能なのかどうか、という問題もありますので、法制審議会の部会資料によれば、具体的な制度をどのように設計するのかについては、最高裁の決定を待って検討するということになっていました(法制審議会−民法(相続関係)部会・部会資料14)。
したがって、最高裁決定が出されたことにより、相続法改正の検討もさらに進められることになります。なお、上記2)の預貯金の払い戻しができるかどうかについては、最高裁決定の中で、5名の裁判官が「現行法の下では、遺産分割の審判事件を本案とする保全処分として、相続財産中の特定の預貯金債権を当該共同相続人に仮に取得させる仮処分(仮分割の仮処分。家事事件手続法200条2項)等を活用することが考えられるが、今後、家庭裁判所において、類型に応じた保全処分の要件等を検討する必要がある」と補足意見として述べています。
これからの相続法改正をめぐる議論にも注目する必要がありそうです。