特別縁故者に関する判例

判例雑誌に、特別縁故者に関する裁判例が掲載されていました。

被相続人の身の回りの世話をしてきた近隣在住の知人(X1)と、被相続人の成年後見人であったいとこ(X2)について、特別縁故者であることを否定した原審判を変更し、それぞれに500万円の財産分与を認めた大阪高等裁判所の決定です(平成28年3月2日決定・判例時報2310号85頁)。被相続人の遺産は、約1億2500万円の預貯金等でした。

X1は、被相続人の夫が亡くなったときに納骨への同行を行うなどしたほか、約13年間、被相続人の通院付添や、週3回以上の夕食の準備といった身の回りの世話をしており、被相続人から月に2万円程度のアルバイト料をもらっていました。

X2は、親戚付き合いや相談に乗るなどに加え、成年後見人の申立てに協力し、被相続人の成年後見人に選任され、被相続人が死亡するまで10年近く身上監護を続けました。成年後見人報酬として、323万500円を受領しています。

原審(大阪家庭裁判所)は、X1は、被相続人の身の回りの世話をしてきたに過ぎず、X2は、後見人報酬を受領しているのであるから、同報酬によってX2がした身上監護はすべて賄われているとして、両者は民法958条の3第1項にいう「被相続人と生計を同じくしていた者」にも、「被宗族人の療養監護に努めた者」にもあたらず、特別縁故者の要件を満たさないと判断しました。

それに対して、大阪高等裁判所は、X1については、長年身の回りの世話をしてきたことを考慮し、アルバイト料をもらっていたとしても、金額的に、時期的に限られていることから、特別縁故者として認める妨げにはならないとしました。また、X2については、親戚づきあいを超える付き合いをしていたことを考慮し、後見人報酬があったとしても、被相続人がX2に財産を遺したいとする意思が認められることからすれば、特別縁故者として認める妨げにはならないとしました。

大阪高裁の決定で重要視されたのは、被相続人が、亡くなる8年ほど前に、X1、X2、その他3名に対して自分の財産を遺贈しようとして書面を作成したことでした。被相続人は、公正証書遺言を作成するつもりであったところ、民法966条1項により遺言が無効となるため、公正証書遺言の作成は断念したという事情について言及されています。

ただ、この決定には、立場の異なるX1とX2について、500万円という同じ金額の分与を認めた理由については、特に述べられていません。

特別縁故者については、最近の民商法雑誌152巻3号316頁にも、東京高等裁判所の各決定(平成26年1月15日、平成26年5月12日、平成25年4月8日)が掲載されています。

(特別縁故者に対する相続財産の分与)
民法958条の3  前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。

(被後見人の遺言の制限)
民法966条 被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。
2 前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。