新しい算定表

先週、日弁連が、養育費や婚姻費用について新しい算定表を提言したことが報道されました。「養育費が現在の約1.5倍になる」という報道の見出しもありましたので、依頼者の方から、これはどういうものなのでしょうかというご質問も既にいただきました。

現在、養育費や婚姻費用を決定する際には、判例タイムズ(No.1111)という法律雑誌で2003年に東京・大阪養育費等研究会が発表した「簡易迅速な養育費の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案-」における簡易算定表が活用されています。これに法的拘束力があるわけではないのですが、家庭裁判所の調停でも、この簡易算定表に基づいた話し合いをしています。しかし、この簡易算定表については、低額にすぎる等、これまでにも様々な意見が出されていました。日弁連も、2012年に意見書を提出しています。

新しい算定表について、今年の夏、日弁連は各委員会を通じて私たち会員に意見照会していました。日弁連内でも様々な意見があったと思われますが、それが取りまとめられ、今回の公表に至ったのです。もっとも、新しい算定表が提言されたからといって、それが直ちに家庭裁判所で活用されるものではありませんし、法的拘束力もありません。賛成意見もあれば、反対意見・慎重意見もあると思います。

現在の簡易算定表と新しい提案の違いは、「基礎収入」の捉え方です。前者は、「基礎収入」は総収入の約4割と考えられています。公租公課(税金、保険料)、職業費、住居関係費等の「特別経費」を総収入から控除しているからです。住居関係費等を「特別経費」として控除するのは、それらが生活様式を変更しないかぎりは金額を変更できない弾力性の乏しい支出と考えられているからです。対して、後者は、住居関係費等は生活費として取り扱われるものとし、総収入から控除すべき「特別経費」に含めていません。その結果、給与所得者の「基礎収入」は、総収入の約6~7割になっています。

また、後者が、前者よりも子どもの年齢区分を細分化していることも相違点です。前者は、0~14歳、15~19歳の2区分であり、後者の算定表では、0~5歳、6~14歳、15~19歳の3区分となっています。

新しい算定表にせよ、現在の算定表にせよ、表にすることで婚姻費用や養育費の算定が簡易・迅速化されました。ただ、どんな事柄にも言えることですが、表にすることで、個別具体的な事情が反映されにくくなるという面もあります。そのバランスは依然として重要だろうと思います。

また、養育費は金額も重要ですが、それを確保する方法の検討が必要でしょう(現在、民事執行法の改正が議論されていますが)。諸外国では、公的な制度として、給与天引き、所得税還付金や失業給付からの相殺、刑事罰の適用、立替払いがなされているようです。早稲田大学の棚村政行教授の「面会交流と養育費の実務と展望」(日本加除出版株式会社)には、アメリカ、イギリス、オーストラリア、スウェーデン、韓国における養育費制度が紹介されています。