配偶者等の暴力による被害者を保護するための制度として、「保護命令」があります。
保護命令には、被害者への接近禁止命令(被害者の住居や勤務先等の付近をうろつくことを6か月間禁止する)、電話等の禁止命令(被害者への接近禁止命令が発令されていることが条件)、退去命令(加害者に対して2か月間自宅から出て行くことを命じる)、被害者の子どもへの接近禁止命令(被害者への接近禁止命令が発令されていることが条件)、被害者の親族等への接近禁止命令(被害者への接近禁止命令が発令されていることが条件)です(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律10条)。
保護命令が発令され、それに違反した場合には、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科せられます。
保護命令が申し立てられると、申立人の面接日が設けられ、その後裁判所で相手方の審尋期日が行われ、裁判官が相手方から事情を聴取します。保護命令申立事件は迅速に処理されますので(同法13条)、数日後、早ければ審尋期日当日に保護命令が下されることもあります。保護命令に対しては、即時抗告することができます(同法16条)。
私自身は、ドメスティックバイオレンスの被害者の代理人として保護命令を申し立てて、それが認められた事件もあれば、他方、保護命令の申立てを受けた依頼者の代理人として活動し、申立ての取下げを得た事件もあります。ドメスティックバイオレンスは当然許されませんが、申立人の主張にむしろ問題があると思われた事案について、相手方の代理人をお引き受けしたのです。
保護命令が発令される要件は、配偶者からの身体に対する暴力又は生命等に対する脅迫を受けた申立人が、さらなる身体的暴力を振るわれて生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいことです(同法10条)。夫婦関係には事実婚も含まれます(同法1条)。なお、精神的暴力は含まれません。
また、平成25年改正法(平成26年1月3日施行)により、生活の本拠を共にする交際をする関係にある相手方からの暴力及び当該暴力を受けた者についても、適用範囲が拡大されました。ただし、「婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいない」場合は除かれます。
したがって、申立人としては、上記要件に即した主張・立証を準備し、相手方としては、上記要件に該当しないことを反証することになります。限られた時間内での準備になりますので、的確な証拠を十分に収集し、裏付けのある説得的な書面を提出する必要があります。