離婚の調停や裁判において、しばしば財産分与として退職金が争点になることがあります。既払いの退職金については、通常の財産として精算の対象とされていますが、問題は将来の退職金です。財産分与の対象になるのか、対象とする場合にはどのように算定するのかが問題となります。
これについては、将来退職金を受け取れる蓋然性の高さが関係します。退職金の支給の有無や金額には、会社の存続・経営状況、本人の退職時期や退職理由といった不確定要素があるため、精算が容易ではないからです。
よって、将来支給される退職金を財産分与の対象とする場合、⑴それ自体を分与対象財産にはしないが、財産分与の額を判断する際に考慮すべき一つの事情とする(東京高判S61.1.29)、⑵離婚時点で退職した場合に支給される退職金の金額を財産分与の対象とする(東京地判H11.9.3)、⑶将来の退職金が支給された時点で財産分与の対象として支払いを命じる(横浜地判H9.1.22、東京高判H10.3.18、東京高判H10.3.13)、といった手法があります。
夫が地方公務員であり、退職金の支給が13年後であったとしても、倒産等により夫が退職金を受給できな可能性は皆無であるとして、財産分与として250万円の支払いを命じた判例もあります(東京地判H13.4.10)。
退職までの年数や蓋然性の高さ、勤務先の種別により事案に即した解決が望まれますが、二宮周平先生の「家族法 第3版」(新世社)では、⑴は具体的額は不明で清算としての意義は弱い、⑵一括払いできる資力が不可欠であり、これに配慮して控えめな金額になりがちである、⑶勤務先からの連絡がない限り(これを強制する方法はない)、退職時期(支払い時期)が不確定であり、配偶者の任意の履行に期待するしかなう、執行の確実性が低いとそれぞれ指摘されています。