判例時報の8月11日号(No.2297)に、国際裁判管轄を定めた民事訴訟法第3条に関する判例(最高裁判所第一小法廷・平成28年3月10日判決)が掲載されていました。
上記判例は、米国法人がウェブサイト上に掲載した記事による名誉等の毀損を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求訴訟について、民事訴訟法3条の3第8号(不法行為地に関する訴え)により日本の裁判所が管轄権を有するとしたうえ、同法3条9の「特別の事情」にあたると判断して、訴えを却下した原審を維持した判例です。
複数の国が事案に関わっている場合に、どの国の裁判所がその事件を取り扱うことができるか、というのが国際裁判管轄の問題です。国際裁判管轄については、明文規定がなかったため、しばらく判例法理によっていましたが、平成24年4月1日、民事訴訟法と民事保全法について、財産関係事件に関する国際裁判管轄の規定(民事訴訟法第3条の2~12など、民事保全法11条)が新設された改正法が施行されました。
そして、身分関係事件についても、家事事件手続法(平成23年成立、平成25年施行)を待って、国際裁判管轄に関する法制審議会が開催され、平成28年2月26日に改正法案が国会に提出されました。身分法関係については、離婚事件が多数を占めており、判例の蓄積(最判昭和39年3月25日、緊急管轄に関する最判平成8年6月24日など)があることから、上記改正法案は、現行の判例法理や運用を明確化したものであり、実務が大きく変わる場面は限られると考えられています。
なお、どの国の法律が適用されるかという準拠法の問題は、国際裁判管轄とは別の問題です。これは、「法の適用に関する通則法」という法律に定められています。日本の裁判所に管轄が認められても、日本法ではなく、外国の法律が適用されることもあります。
《民事訴訟法第3条の9》
裁判所は、訴えについて日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合(日本の裁判所にのみ訴えを提起することができる旨の合意に基づき訴えが提起された場合を除く。)においても、事案の性質、応訴による被告の負担の程度、証拠の所在地その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、その訴えの全部又は一部を却下することができる。