昨日ご紹介した雑誌(家庭の法と裁判)には、祭祀(さいし)財産を誰が承継するのかについての裁判例も掲載されていました。
祭祀財産とは、系譜(祖先以来の家系を表示するもの)、祭具(位牌、仏壇、霊位、十字架やそれらの従物)、墳墓(墓石や墓碑などの墓標)です。相続が生じると、一般の相続財産とは別に、この祭祀財産を誰が承継するのが問題となります。祭祀財産は共同相続の対象にはならず、相続人以外の人が承継者になることも可能です。従来の家制度(家督相続の特権)と、現民法の共同相続との過渡的な制度として設けられました。
民法897条によれば、祭祀財産の承継者は、被相続人の指定(生前行為でも、遺言でも構いません)に従い、それがなければ慣習(当該地域や出身地、職業特有の慣習など)に従って決まります。従うべき慣習もなければ、家庭裁判所が定めますので、調停や審判の対象になるのです。
この場合、家庭裁判所は、被相続人との間の身分関係や事実上の生活関係、被相続人の意思、祭祀承継の意思及び能力などを基準として、祭祀承継者を定めています。掲載されていた裁判例(H26.6.30 さいたま家審)でも、申立人は、1)長年、被相続人と同居していたこと、2)被相続人が主宰する被相続人の夫の葬儀や法事を援助していたこと、他方、相手方は、1)被相続人と同居したのがごく短期間であったこと、2)同居のきっかけは、申立人の自宅建替時に高齢であった被相続人を預かるというものであったこと、3)被相続人の危篤時にも、死亡時にも、その事実を他の親族に伝えず、被相続人を密葬をしたこと等を考慮して、申立人を承継者として定めています。
祭祀財産の承継は、司法統計上、事件数は多くはありませんが、祭祀財産に財産的価値があるケース、墓地の維持管理などで承継者の負担が重いケース、各相続人の被相続人への思いなどもあり、深刻な対立になることがあります。