相続放棄の熟慮期間

亡くなった方(被相続人)の財産が、プラスよりもマイナス(負債)の方が多い場合、相続人は、相続放棄をすることができます。相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったことになります。

ただし、無限定に認められるというわけではなく、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きしなければなりません(民法915条1項)。この期間を「熟慮期間」といいます。

民法の条文はシンプルですが、熟慮期間の起算日(相続の開始があったことを知った時)が具体的にいつになるのかについては、判例・学説でも見解が分かれています。最近の判例雑誌にも、起算日について、家庭裁判所と高等裁判所で判断が分かれた事案が紹介されていました(判例時報No.2259・58頁)

基本的には、被相続人の死亡を知ったことに加えて、相続財産の存在を認識したときが起算日と考えられています。例えば、長年、音信不通であった親が死亡したことを知ったが、特に手続きはしていなかったところ、その1年後に、親の借金にについて支払を求める請求書が自分宛に届いて驚いた、というケースがあります。このような場合は、熟慮期間の起算日は親の借金を知った時と考えられ、相続放棄の手続きをすることが可能です。

裁判例の中には、起算日の解釈によって相続人を救済したと考えられるものもあり、実務上は、比較的柔軟に運用されているように思います。

もっとも、意外に難しい問題ではありますので、弁護士にご相談いただくのがよいと思います。