口授(くじゅ)

新しい判例雑誌が届きました。その中に、公正証書遺言が適法な「口授(くじゅ)」を欠くものとして無効とされた事例が紹介されていました。

遺言には自筆証書遺言(民法968条)のほか、公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言(民法969条)があります。公正証書遺言には、証人2名以上の立ち会いや、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授することなどの決まりがあります(民法969条の2により、聴覚・言語機能障害の方については口授を手話等により代えることができます)。

そこで、遺言者が、どの程度まで遺言の内容を口頭で述べれば、「口授」の要件を充たすのかが問題になります。例えば、公証人の質問に対して、遺言者がたた頷いただけでは口授があったとはいえないでしょう。

この事例においては、遺言の内容が複雑であること、遺言者が筆記書面作成過程を主導していないこと、遺言者の判断能力の低下が顕著だったこと、公証人の説明に対して、遺言者が自分なりの表現や具体的な指示をすることがなく、「はい」と肯定する返事しかしていなかったこと等の事情を総合的に考慮して、「口授」があったとは言えないと判断しました。

ところで、民法の改正案においては、個人保証を制限するため、保証意思について公正証書を作成することが保証契約の要件となります。保証人になろうとする者は、保証する債務の内容等について、公証人に「口授」するものと定められていますので(改正案:465条の6第2項)、遺言と同様に、同様に「口授」を充たすかどうかが問題になると思われます。