ハラスメントの認定及び判断要素

昨日までパワーハラスメントの裁判例を紹介しました。

パワーハラスメントの裁判にあたっては、いかなる事実があったのかということが、まず問題になります(セクハラやモラハラなど、ハラスメント全体に共通するとも言えます)。当事者同士が言った、言わない、と争っているだけの状況では、裁判所が事実認定するのは困難であり、やはり、外形的事実や客観的な証拠が重要です。

例えば、ご紹介した3つの裁判例についていえば、被害者側に有利な証拠としては、訴訟提起を前提としていない時期に被害者が主治医に話した内容が記載された診療録、診療経過・病状・傷害の時期及び内容が分かる診断書、被害届、退職届の下書き、休職願い、病気休暇の取得状況、特別研修の受講、SYコンプライアンス室の調査等における他者の証言内容などでした。また、加害者側に有利な証拠としては、コンプライアンス室の具体的な調査内容(時期、方法、内容)などでした。被害者側にとっても、加害者側にとっても、できるかぎり客観的な証拠を残しておくことが大切です。

事実が認定された後は、その事実をいかに評価するかの問題になりますが、違法の評価は、被害者側の心理的負荷の大きさによると思われます。そして、心理的負荷の大きさを判断する際には、被害者の健康状態、被害者の業務内容及び業務量、人格否定あるいは名誉感情を害する態様の言動であったかどうか、雇用あるいは地位に関して不安を煽る言動であったかどうか、行為の期間及び頻度などが、判断要素になります。心理的負荷の強弱については、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z3zj.html)なども参考になるのではないかと思います。

また、ご紹介した裁判例では、加害者が被害者の心身に対する配慮していたかどうかが考慮されています(診断書を棚上げして休職の申し出を阻害した行為を違法とし、医師から被害者にパニック障害があることを聞かされていたにもかかわらず、同医師に被害者の精神状態を確認したかったことを加害者の過失としています)。使用者・上司としては、日頃から、従業員・部下の心身の健康状態に留意する必要があると思われます。