パワハラに関する報告を読んで

1月30日、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」が、職場の「いじめ・嫌がらせ」「パワーハラスメント」に関する報告を取りまとめ、公表しました。私は、このような問題について、弁護士として講義・講演をする機会があります。昨年から今年にかけて、セクシュアルハラスメント(セクハラ)についての講義・講演を依頼される機会が続いたのですが、特徴的だったのは、セクハラだけでなく、パワーハラスメント(パワハラ)についても話をしてほしいというご要望が多かったことです。パワハラに対する関心の高さを実感しておりましたので、関心を持って厚労省の報告を読みました。

報告では、パワハラを、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為と定義します。優位性には、上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれます。

次に、報告では、パワハラを次の6類型に分けます。
(1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
(2)精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
(5)過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

そして、報告は、この問題を予防・解決するための労使の取組について、まず、企業としてパワハラはなくすべきという方針を明確に打ち出すべきであると指摘します。そして、行政に対しても、実態の把握、明確化や周知啓発を促します。

パワハラには、セクハラと異なり法的な定義がありません。パワハラは和製英語であり、平成14年ころ、株式会社クオレ・シー・キューブの岡田康子さんが、「職権などのパワーを背景にして、本来業務の適正な範囲を超えて、継続的に人格や尊厳を侵害する言動を行い、就業者の働く環境を悪化させる、あるいは雇用不安を与えること」をパワハラと命名したのが始まりです。その後も、統一された定義はありませんでしたので、厚労省の報告は、企業等のパワハラ対策にも少なからぬ影響を与えると思われます。

厚労省が「業務の適性範囲を超えて」と定義したように、パワハラにおいては、業務上の指揮命令や業務指導として適切かどうかが重要です。裁判例では、パワハラとされた発言や行為の内容だけではなく、その発言や行為の「動機」「目的」「態度」「方法」が考慮されています。具体的には、暴言がNGなのはもちろん、仕事と関係のない私的な事柄や私情を持ち込むこと、人格攻撃や個人的な性癖を非難すること、犯したミスに対して必要以上に叱責することや制裁を加えることもNGです。

前記のとおり、セクハラと比べて、パワハラの概念はまだ新しく、いかなる行為がパワハラに該当するかの判断基準も確立しているわけではありません。他方で、セクハラやパワハラは職場における身近な問題であり、誰もが被害者にも加害者にもなり得ます。近年、ハラスメント等による精神障害(うつ病など)の労災請求件数も大幅に増加しており、昨年12月には、厚労省が心理的負荷による精神障害の労災認定基準を新たに定めました。近年、パワハラに対する関心はますます高くなっており、今後、裁判例が集積されていく分野の一つでしょう。