セクシュアル・ハラスメント

私は、公的な機関でセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)の外部相談員を担当しています。先日、相談員の方向けにセクハラについて講演する機会がありました。

セクハラが初めて法律で定義されたのは、男女雇用機会均等法21条(職場において行われる性的な言動)です。そして、平成10年3月、労働省告示で事業主が配慮すべき指針が示されました。その指針によれば、セクハラには「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」があります。「対価型セクハラ」は「性的言動により女性労働者が労働条件について不利益(解雇、降格、減給)を受けるもの」、「環境型セクハラ」は「性的言動により女性労働者の就業環境が害されるもの」と定義されます。「性的言動」とは、「性的な内容の発言」や「性的な行動」を意味します。「性的な内容の発言」は、性的な事実関係を尋ねることや性的な内容の情報を意図的に流布することです。「性的な行動」とは、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布することです。

この労働省告示は、女性労働者のみを対象にしていますが、その後、人事院規則において、男女を問わず、セクハラ、ジェンダー・ハラスメント(性別によって役割を分担すべきという意識に基づく言動)も規制されるようになりました。

セクハラを一言で表現すれば「相手方の意に反する性的言動」です。したがって、女性から男性に対するセクハラ、同性間のセクハラも成立します。講演では、セクハラ概念の話だけでは具体的なイメージが沸きませんので、これまでの裁判例について、特徴的なものを選んで紹介しました。

セクハラはとても複雑で、単なるマナー違反から違法なものまで広い範囲に及びます。また、相手が嫌と感じるかどうか、つまり自分と相手との関係で決まるという意味で相対的なものです。さらに、一度だけの行為でも違法なセクハラと判断される事案もあれば、当初は許されていた行為が反復継続されることで違法なセクハラに発展することもあります。セクハラか否かを判断する際には、行為の具体的内容(時間、場所、程度)、当事者の関係(特に支配従属関係)、行為者の対応(謝罪等の有無)、いじめや人事上の不利益を伴うものであったか等が考慮されます。

今回は、相談員の方向けの講演でしたので、相談員としての留意点についてもお話ししました。相談者は不安な思いを抱えています。事実関係をきちんと把握するためには、先入観を持たずによく話を聴くこと、先を急がせないことが重要です。また、相談者との信頼関係を築くことが大切です。そのためには、自分の価値観を相談者に押しつけることがないよう、気をつける必要があります。

セクハラに限らず、私たち弁護士も、相談者と接するときは、常に心掛けなければならないと思います。