不貞の慰謝料請求

以前、簡易裁判所の民事調停官として仕事をさせていただいた関係で、調停委員の先生方の定期研修会で、お話をさせていただきました。お世話になった先生方の前で講師として話をするのはうれしくもあり、また緊張もしました。ここ最近、不貞行為に基づく慰謝料請求事件が増加しており、実際に、調停の事件数も多くなっているので、ここでは不貞の慰謝料をテーマとしてお話ししました。

不貞の慰謝料請求については、その性質上、夫婦のあり方、結婚や離婚をめぐるモラル・価値観の影響を強く受けます。そのため、時代や地域によって、扱われ方は異なります。例えば、現在、不貞の慰謝料請求については裁判で当たり前のように認められるイメージがありますが、昭和40年代半ばから50年代半ばまでは、不貞は夫婦間の問題として処理するのが望ましいという見解が多く、慰謝料請求が認められなかった事案も多かったそうです。また、現在も、学説(法学者の見解)においては、不貞の慰謝料請求を否定するものがむしろ有力となっているようです。

講演にあたって、明治期から現在まで判例の傾向や、諸外国での裁判例などを調べたのですが、興味深いものがありました。不貞の慰謝料請求については、「不貞」とはどのような行為なのか、どの程度の認識があれば「故意・過失」があるといえるのか、といった要件の問題から、慰謝料の金額にあたって考慮される要素は何かといった問題など、様々な問題があります。しかし、これらの問題は、夫婦のあり方、結婚や離婚をめぐるモラル・価値観の影響を強く受け、時代や国によっても考え方に大きな違いがあるのですから、今後も変化していくのかもしれませんね。