2人の調停人 ~京都国際調停センター設立記念セミナーと国際家事調停人養成研修~

本日は、仕事納めでした。
今年も大変お世話になりまして、ありがとうございました。
皆様、どうぞ良い年をお迎えくださいませ。

年始業務は1月9日に開始します。
来年もよろしくお願い申し上げます。

以下は、本年秋に開催された研修についての文章です。
同じ愛知県弁護士会に所属する田邉正紀弁護士と共同執筆しました。

1.別席調停か、同席調停か?
 2017年秋、調停に関する2つのセミナーが開催されました。1つは国際ビジネス調停に関するセミナー(11/30、12/1 於:同志社大学)であり、もう1つは国際家事調停人養成研修(10/27~29於:大阪弁護士会館)です。前者は同志社大学と公益社団法人日本仲裁人協会の協力による「京都国際調停センター」の設立を記念したセミナーであり、後者は同協会が元九州大学大学院教授のレビン小林久子氏を講師に迎え、大阪弁護士会と公益社団法人民間総合調停センターの後援により例年開催している研修です。興味深いのは、両者ともに著名な調停人による講義が行われたところ、前者が別席調停を前提としていたのに対し、後者は同席調停を前提としていたことです。以下、両セミナーについて紹介します。

2.国際ビジネス調停に関するセミナー
 このセミナーの最大の目玉は、国際ビジネス調停の世界では最も有名な調停人であるアントニオ・ピアッツァ氏が来日してお話してくださったことです。ピアッツァ氏は、ハワイのマウイ島で調停をすることで有名ですが、38年間で約4000件の調停を扱い、その成立率は80~90%を誇るそうです。しかも、ほとんどのケースで実際の調停に費やすのはたったの1日です。マウイ島で調停をやると「当事者が早く海で泳ぎたいから調停がまとまる」と半分冗談でいわれていますが、これにはもう少し深い意味があるようです。ピアッツァ氏は、調停の場には、必ずその場で決断を下せる会社のトップを同席させます。そうすることで、トップは「マウイ島まで行って結果を持って帰って来られなかった」という汚名を避けるために必死で和解をするそうです。
 また、ピアッツァ氏の和解のテクニックの一部も披露していただきました。その一つが、調停人は対立当事者の主張を伝達することをやらないということです。日本の調停では、調停人がよく「相手はこう言っていますが、どうしますか」ということを言いますが、ピアッツァ氏はこれをしません。まず初めに同席の場で、両当事者にお互いの主張をさせ、ピアッツァ氏は、それぞれの主張を約2分間に要約して当事者に伝えます。この要約が的確であれば、両当事者は互いの主張を理解し、調停人は当事者の信頼を得ることができるのだそうです。その上で、ピアッツァ氏は、必ず別席で当事者と話をします。そうすることで、当事者間の対立を、調停人と当事者との間の問題意識の共有、事案の評価、選択肢の検討に置き換えるのだそうです。ピアッツァ氏は、ビジネス調停では、①本音を言える状況で調停人が情報収集をできる、②相手方がいるところでは言えないようなリスク要因を当事者に示すことができる、③いろいろな選択肢についてざっくばらんに検討できるというような理由から、別席での手続が絶対に必要だと強調します。調停人は、別席で手続を進め、両当事者が受け入れ可能と思われる提案ができると考えた段階で同席に戻して調停案を提示します。ここで重要なのは、どちらかが先に提案を受諾しても絶対にそれを他方に伝えないことだそうです。なぜなら自らが先行して受諾し、相手方が受諾しなかった場合に、先行して受諾した者がその後の交渉で不利な立場に立たされるからです。ピアッツアァ氏は、このような手続を1日で完結し調停を成立させていきます。このようなやり方は、表面的にみると日本の裁判所での和解に近いものがありますが、別席での会話が相手の主張や譲歩についてのものではないという点で決定的に異なるようです。

3.国際家事調停人養成研修
 この研修は、双方当事者を同席させたうえ、調停人の適切な進行により当事者自らが解決方法を見出すという対話促進型同席調停を学ぶものです。参加者の大半が全国各地から参加した弁護士でした。この対話促進型同席調停においては、調停人の技量が重要な意味を持ちますので、参加者は、紛争解決理論やサマライジング、パラフレイジング、リフレイミングといった話し方の技法を学ぶとともに、英語あるいは日本語によるロールプレイを行いました。
 同席調停においては、調停人は、対立状態にある当事者と同時に向き合います。よって、常に中立的であること、当事者の感情を理解していることを態度で示し、当事者の信頼を得る必要があります。そのためには、否定的な意味を持つ言葉や価値判断を伴う言葉を使用しないよう、当事者が語った言葉を安易に言い換えないよう細心の注意を払わなければなりません。そして重要なのは、「相手はこう言っていますが、どうしますか」というように、一方当事者の言い分をそのまま他方当事者に伝えて意見を聞くということは絶対にしないということです。それでは一方の主観的意見を前提にしているだけだからです。調停人は各当事者の主張を聞いた上、双方に問題意識を共有させる目的でそれを要約し、調停人の言葉で双方当事者に伝えます。実際にロールプレイで調停人の役割を経験しますと、使用する言葉に神経を使いつつ、当事者の主張とその理由を把握し、話し合うべきテーマを見つけて当事者に提示するには相当の集中力が必要であり、1〜2時間のロールプレイでも体力をかなり消耗しました。しかし、このような作業によって当事者自らが納得できる解決策を見出したときの達成感は同席調停の醍醐味であるといえます。

4.改めて、同席か?別席か?
 一般的に世界では、対話促進型同席調停が主流であると言われますが、同じ時期に2つのセミナーに参加したことより、様々なやり方で高い成立率を誇っている調停人がいることがわかりました。
つまり、方法論として、同席調停と別席調停のいずれがより優れているかという二者択一的な考えは正確ではなく、いずれの方法であっても、調停人のマインドやテクニックは共通するということに気付きました。重要であるのは、当事者をリスペクトし、何とかして紛争を解決しようという調停人の姿勢であり、それにより当事者の信頼を得ることができ、話し合いの場が創られるということです。よって、同席であっても、別席であっても、優れた調停人は同じ振る舞いをするのだと思います。
私たちには、全ての紛争が同一の方法で解決できるわけではないこと、日常的に関わっている別席調停も当事者にとって唯一無二の制度ではないという視点を持ちながら、現在の制度を見つめ直すことが必要とされているのではないでしょうか。なお、今後も国際家事調停人養成研修は開催が予定されており、ピアッツァ氏は、京都国際調停センターの調停人リストに掲載されています。皆さんも、同席調停を体験、あるいはピアッツァ氏の調停を受けてみませんか。