相続法改正の中間試案~その5~

以前、このひと言で相続法改正についてご紹介しましたが、遺言制度までで終わっておりました。そこで、その続きとして、本日は遺留分制度に関する改正提案について記載します。

まずは、「遺留分減殺請求権の効力及び法的性質の見直し」です。現行法上、遺留分減殺請求権により当然に物権的効果が生じます(最判S51.8.30)。そのため、減殺請求権を行使した場合、遺贈又は贈与の目的財産が受遺者又は受贈者と遺留分権利者との共有になります。この共有関係を解消するために新たな紛争が生じたり、事業承継に支障が生じたりする場合があるという問題意識から、その法的性質を見直そうとする改正提案です。

提案内容は、現行の規律を見直して、減殺請求によって原則として金銭債権が発生するものとしつつ、受遺者又受贈者において遺贈又は贈与の目的財産による返還(現物返還)を求めることができる制度を創設するというものです。そして、受遺者又は受贈者が現物返還を求めた場合の効果について、ⅰ)裁判所がその裁量で現物返還の内容を定める、ⅱ)現行法と同様の規律で当然に現物返還の内容が定まる、という2つの案が提示されています。つまり、遺留分権利者は、受贈者又は受遺者に遺留分に相当する金銭を請求します(その金額を正確に算定できるのかどうかは問題の一つです)。請求を受けた側は、金銭で返還することもできるのですが、遺留分権利者に対して現物返還を求めることができます。現物返還が求められた場合、その内容はどのようにして決められるのか、ということです。

これに対するパブコメの結果ですが、減殺請求権の行使によって生ずる権利を原則金銭債権とする点については賛成多数でした。そして、現物返還を認める制度の創設については、裁判所がその裁量で現物返還の内容を定めるⅰ)案の方が賛成多数ですが、両案ともに反対する意見も相当数ありました。ちなみに日弁連は、両案に反対しています。その理由としては、現行法でも価額弁償(民法1041条)が認められており、事案に応じて現物か金銭かの選択が既に行われていること、現物を求めている人に金銭で弁償するのはよしとしても、金銭を求めている人に現物を返還されることを強制するのはいかがなものか等の問題意識などです。

もっとも、法務省の法制審議会の部会資料によれば、現行法の規律見直しの方向で検討を行い、その結果を踏まえて見直しの是非について判断するようです。遺留分制度については12月20日に第16回部会が予定されています。上記制度を創設する場合には、新しい訴訟類型となりますため、当事者が必要とする判決主文(債務名義)を得るためには、いかなる訴訟、反訴等を提起すればよいのか、訴訟物をどのように整理するのか等について、同部会でより具体的な提案がなされるのではないかと思います。

また、「遺留分算定の方法」についても提案されています。現在の判例(最判H10.3.24)及び実務は、民法1030条の解釈として、相続人に対する生前贈与は時期を問わず全てが遺留分算定の基礎となる財産の価額に算入しています。何十年も前の生前贈与が算入される結果、遺留分の価額が大きくなり、第三者である受遺者又は受贈者に不測の損害を与え、法的安定性を害するのではないか、という問題意識です。第三者たる受遺者又は受贈者には過去の生前贈与について知りようもなく、遺留分権利者から予想外の減殺請求を受けるくらいだったら、財産をもらわなければよかった、ということになってしまうのです。

そこで、相続人に対する生前贈与については、相続開始前の一定期間(例えば5年間)にされたものに限り、遺留分算定の基礎となる財産に含め、それより前になされた生前贈与はこれに含めないという提案がなされています。

この提案に対するパブコメの結果は、賛成多数でした。ただし、一定期間については慎重に検討すべきとする意見が多く、10年程度が相当という意見もありました。ちなみに、日弁連はこの提案に反対しています。理由は、期間を限定した場合、生前贈与を受けた時期によって、ある相続人の生前贈与は算入され、他の相続人の生前贈与は算入されないなど、相続人間に不公平が生じるからです。

法務省の法制審議会の部会資料によれば、パブコメの結果をふまえ、相続人間の公平の要請にも配慮しつつも、第三者の法的地位の安定性の観点から、相続開始前の一定期間に限定するとの考え方を引き続き検討するとされています。

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