変わる民法(消滅時効)

性的虐待行為により、PTSD(心的外傷後ストレス障害)等の精神疾患を発症した女性について、除斥期間の経過を認めなかった札幌高裁の裁判例(H26.9.25)が判例雑誌に紹介されていました。

現在の民法では、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は、「損害及び加害者を知ったとき」から3年です(724条)。また、除斥期間が20年とされています。除斥期間は、消滅時効と異なり、中断や停止がありません。つまり、不法行為時から20年経過すると、損害賠償請求権は消滅してしまうことになります。

上記事案は、昭和58年頃まで行われた性的虐待行為により、昭和58年頃にPTSD等を発症し、平成18年9月頃にうつ病を発症し、平成23年4月に訴訟提訴したという経過を辿りました。

そうしますと、性的虐待行為から提訴までに、既に20年の除斥期間が経過し、損害賠償請求権は消滅しているとも考えられます。しかし、札幌高裁は、PTSDとうつ病とは、質的に全く異なる別個の損害であるとして、PTSD等の除斥期間は経過しても、うつ病による損害の起算点は発症時の平成18年9月頃であるとして、除斥期間はまだ経過していないとしました(なお、消滅時効については、加害者が被害者に対して提訴直前に一定金額を支払う申し出をしたことから、援用は許されないとしています)。

さて、民法の改正要綱によれば、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効は、主観的起算点が5年、客観的起算点が20年のいずれか早い方となります。20年は除斥期間ではなく、消滅時効期間となりますので、中断や停止があり得ます。そして、主観的起算点は、現在の民法の「損害及び加害者を知った時」の解釈が参考になるものと思われます。

その場合、上記判例の事案については、消滅時効の主観的起算点が、うつ病による損害発生を知った平成18年9月頃になると思われます。すると、平成23年9月の提訴時にはまだ時効完成前であって、提訴によって時効が中断されたという扱いになります。